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Le Style PEUGEOT

Vol.4 プロたちの技が光る、プジョー車陸揚げの舞台裏

フランスで生産されるプジョー車は、はるか1万kmもの航海を経て、日本にやってきます。
その車両を運ぶのは、自動車専用船。プジョー車がどのように運ばれ、どう陸揚げされるのか。
千葉県・千葉港で自動車専用船と車両陸揚げの模様を取材しました。

夏の訪れを感じさせる潮風が吹く、早朝の千葉港。その風に押されるように、沖合からひときわ大きな船が埠頭を目指して近づいてきた。船の前後では、象を巧みに操る象つかいのようにタグボートがエスコート。小回りのきかない大型船を岸壁へと案内していく。

その船の名前は「アジアンキング(ASIAN KING)」。約1カ月前にヨーロッパを出港した自動車専用船だ。ヨーロッパでは、ブレーマーハーフェン、アントワープなどに入港し、自動車を積載。その後、地中海からスエズ運河を通って紅海に抜け、ジブチへ。さらにインド洋を東に進み、シンガポールを経由して、日本にやってきた。

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2隻のタグボートは、ときに押し、ときには引き、アジアンキングを岸壁の所定の位置に正確に接岸させた。接岸と同時に、船の前後から岸壁で待つ十数人のスタッフに向けて、何本ものロープがシュルシュルと投げ下ろされる。スタッフたちがたぐり寄せたロープは太い舫綱(もやいづな)へとつながり、アジアンキングを繋船柱(けいせんちゅう)にしっかりと固定していく。時間は接岸の定刻である8時ジャスト。最初に船が視界に入ってから、ほぼ40分が経過していた。

繋船作業が終わると、岸壁はいったん静けさを取り戻す。アジアンキングは、窓や通路といった構造物が船の上部に集中しているため、遠目にはその大きさがつかみにくい。しかし、岸壁を歩いて船体を見上げる位置まで近づくにつれ、その威容は迫力を増していく。切り立った船体は、海から垂直にそびえる6~7F建てのビルのようだ。

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ほどなくして、船体後部と中央、2カ所にあるランプ(積み卸しゲート)がゆっくりと開きはじめた。ランプはいったん水平になったところで止まり、船のクルーがゴム製の大きな緩衝材を岸壁との間に展開する。そしてランプが接地。いよいよ、クルマの搬出がはじまるのだ。

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搬出を担当するのは、通称「ステベ」と呼ばれる、船の荷さばきのプロフェッショナルたち。作業に先立ってスタッフ全員のミーティングが行われたのち、移動用のワンボックスカーで、ランプから船に乗り込んでいく。

船内に入ったステベは、大きく二手にわかれる。一方は"アンラッシング作業"と呼ばれる、クルマを固定しているロープをほどく作業を担当するグループ。もう一方はクルマを船から下ろすドライバーたちだ。アンラッシング作業を終えロープが外されたクルマには、ドライバーが次々と乗り込む。クルマの前方には案内役が立って、懐中電灯のシグナルで誘導。クルマは1台、また1台と積載デッキからスロープを下り、ランプを通って岸壁へと走り去る。その流れはスムーズで、ドライバー達のハンドルさばきも正確だ。そして、岸壁の所定の位置にクルマを並べたドライバー達は、ふたたびワンボックスカーで積載デッキへと戻っていく。

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[写真] 積載デッキのフロアには、逆U字型の突起物が等間隔に並び、クルマの積載時には、前後左右のホイールとこの突起物とをロープで確実に固定する。アンラッシング作業は、このロープをほどき、クルマの移動を可能にする作業だ。

ドライバーたちがクルマを搬出している間にも、アンラッシング作業は続く。出入口に近いところから、徐々に積載デッキの奥へ。ドライバーが戻ってくるまでの時間を使いクルマを搬出しやすいよう並べ替えるのも、アンラッシング要員の仕事だ。一連の動きは、素早く、無駄のひとつも感じられない。こうして、積載デッキを埋め尽くしていたプジョーは、流れるように岸壁へと搬出されていった。

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搬出作業を監督するステベのリーダー、千葉宇徳株式会社の永島部長は語る。「私たちの仕事は、クルマという商品を、傷つけずに船から降ろすことが第一です。そのためには、運転が上手いだけではだめ。長年の経験に基づいて作成された作業手順、つまりマニュアルをしっかりと守って作業ができるかどうか。それが大切なんです。新人はまず、アンラッシング作業を担当。仕事の流れを覚えてからドライバー見習い、ドライバーへとステップアップしていくんですよ」

クルマを傷つけないための配慮は、身だしなみや服装にも現れる。「みんな帽子をかぶっていますが、実はあれはただの帽子ではないんです。船内作業では、安全確保のためにヘルメットは必須ですが、一般的なプラスチックのヘルメットでは、クルマのルーフを汚したり、傷つけてしまう可能性があります。そこで、内側は薄くしなやかなプラスチック、外側は柔らかい布で覆われ、万一クルマに触れても大丈夫な特別なヘルメットを使用しているのです」

さらに、着用しているツナギも特殊なものだという。「ツナギには、外に露出しているファスナーがありません。すべて布地のフラップで金属部分を隠しているんです。一般的なツナギに比べ、格段にコストはかかりますが、これもクルマを傷つけないための工夫です。そのほか、爪を短く切る、汚れがすぐにわかるように白い軍手を使うことなども、マニュアルに明記して厳守しています」

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岸壁では、ドライバーが搬出したクルマの確認が行われていた。大きな破損はないか。そして、車台番号が積荷目録と一致しているか。ここまでが、積荷としてクルマを預かる船会社の責任範囲だという。作業を担当するのは、貨物などの個数や種類を公正な立場でチェックする社団法人全日本検数協会のスタッフたち。1台1台、素早く確認して、クリップボードのリストを蛍光ペンで塗っていく。そしてチェックを終えたクルマから、順次ステベとは別のドライバーの一団に引き渡され、岸壁から隣接するプジョーのバックヤードへ回送される。バックヤードに運ばれたクルマは、今度はインスペクターと呼ばれるプロによる、さらに精緻な点検が行われる。

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バックヤードで、クリップボードを片手にクルマをチェックするインスペクターの小原さんに、話を伺った。

「工場から日本の港まで地球を半周するわけですから、どんなに丁寧に運ばれてきても、不測のキズや傷みが出てしまうことはあります。それをチェックするのが私たちインスペクタの仕事です」

チェック作業は、1台あたり1分半から2分という早業。はたしてそんな短時間で、クルマのキズや傷みが把握できるのだろうか?

「はい。長く続けていると、一般的にキズつきやすいところ、そして車種ごとに特有のポイントがわかってくるんです。このクルマはバンパーの下にスリキズができやすいとか、ホイールが当たりやすいとか。半年も経験すると、かなり"目"が養われてきますよ。ただ、あくまでキズひとつない状態で運ばれてくるのが正常であり、キズがあるのは極めて希なケースですから、集中力を絶やさないことが必要になってきますね」

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さて、ヨーロッパから、自動車専用船での長い航海を経て日本にやってくるプジョー車。その船上の生活や航海の様子はどんなものなのだろうか?答えてくれたのは、イギリス人船長のフィリップ・デービッド・コッド氏。まずは、その船旅について聞いてみた。

「アジアンキングは、ヨーロッパとアジアを往復しています。フランスから日本までは、ほぼ1カ月の航海です。乗り組んでいるのは、私以下、22名のクルーです。航海中はずっと職場にいるようなものですが、勤務は交代制になっています。なかでも、船の頭脳とも言えるブリッジは24時間、常に2名1組が4時間交代で勤務に就くことになっています。エンジンのある機関室は、コンピュータによるオートマチック化が進んでいるため、夜間は無人になります。センサーが異常を感知するとアラームが警告してくれるので、無人でも大丈夫なんです」

日本では、1泊2日の航海でも長距離航路に属するレベル。1カ月にもわたる航海は、ほとんどの人が体験したことのない"長旅"だ。食事など、航海中に不便はないのだろうか?また、外洋の航海で大きく揺れることなどはないのだろうか?

「料理については1日3食、専門のコックが調理します。今回の料理長はフィリピン人。クルーも多くがフィリピン人なので、フィリピン料理が多くなりますが、ヨーロッパ料理やアジア料理まで、かなりのレパートリーを持っています。そのどれも美味しくて、食べ飽きることもありません。紅海からインド洋に出ると、シンガポールなどアジアの寄港地まで8~10日は洋上を進みますが、それ以外は1~2日おきに寄港するので、新鮮な食材に困るようなことはないですね。揺れはほとんど気になりません。いまは岸壁に繋留されていますが、航海中でもこんな感じですよ。船員の多くが航海中の自由時間に卓球を楽しんでいるくらいですから(笑)」

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ところで、アジアンキングの航路には、近年海賊行為の横行が国際的な問題となっているソマリア沖も含まれている。こうした海賊の脅威には、どう対処しているのだろう?

「海賊は、以前からマラッカ海峡、シンガポール海峡などでも問題になってました。ただ、ソマリア沖の海賊は他の地域と"質"が違うんです。マラッカやシンガポールの海賊は、わかりやすく言えば"金か時計をよこせ"です。でもソマリア沖の海賊の目的は船と積荷、そのもの。マラッカやシンガポールでは金目の物を渡すと逃げていきますが、ソマリアの海賊は船を乗っ取ってしまうんです。しかもロケットランチャーや自動小銃で武装しているので、近寄られたり乗り込まれたりしたら対処のしようがありません」

船長は続ける。

「小型の貨物船やタンカーは船団を組み、各国が派遣する軍艦やヘリコプターで守ってもらいながらソマリア沖を通過しますが、このアジアンキングはそうした船団に入るには大きすぎるので、一に監視、二に監視です。海賊船は12~15ノットしか出せませんが、この船は20ノットまで出せるので、早めに発見すれば、安全な距離を保って振り切ることが可能なんです」

そして、意外なことに、日中の方がより警戒を強化しなければならないのだと言う。

「監視は昼も夜も必要ですが、とくに注意しなければならないのは明るい時間帯。海賊達は、夜の限られた視界の中、航行する大型船に横付けして乗り込むのは、海に転落する危険が大きいとわかっています。そのため、昼間に襲撃してくるケースが多いんです。この船に乗っていて安心できる点があるとすれば、船体の構造です。自動車専用船は、舷側が切り立った壁のようになっています。海賊にとっては、舷側の低い一般の貨物船よりも乗り込みにくいんです。」

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このアジアンキング、そして僚船のアジアンエンペラーでの乗務も含め、年間8カ月以上は洋上にいるというコッド船長。海賊について語るときはやや険しい表情になったものの、その顔には"目的地に無事クルマを届けることができた"という満足感がうかがえた。

このように、フランスから多くのプロフェッショナルたちの手を経て日本にやってくるプジョーたち。あなたがハンドルを握るプジョーと、街ですれ違っているプジョーは、実は同じ船で日本にやってきた"旅仲間"かもしれないのだ。

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アジアンキングの船体構造

アジアンキングの船体は、全長200mほど。船内は最下層に機関室(エンジンルーム)、最上層に操舵室や船員の居住スペースを持つ13層構造で、そのほとんどのエリアが、クルマの積載スペースとなっている。

幾層にも重なる積載デッキは、最大6000台以上の乗用車を収容できるという。ひと口に6000台と言われても想像できないが、日本を代表するコンベンション施設、幕張メッセとインテックス大阪の駐車場キャパシティが、それぞれ6000台、3000台ということから、その収容力がおわかりいただけるだろう。

積載デッキは、郊外のショッピングセンターなどにある、自走式の立体駐車場のような構造だ。ただし、フロアの天井高は、下層に行くほど高く、上層に行くほど低い。ランプが接続するフロアは7階にあたり、天井高は2.2mで、最上層となる12階は1.7m。これは、クルマの全高に応じて積載スペースを分けることで、効率的な輸送を可能にするための工夫だ。

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掲載日:2009/7/9

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