ビジネスをはじめとした多くのシーンで活躍する白シャツは、シンプルゆえに奥が深い。大人の男のワードローブに欠かせないアイテムであると同時に、着る人の本質が表に現れる手強い存在でもある。だからこそ、心地よく身体に纏わり付く、上質な一枚を選びたい。白シャツの選び方や付き合い方のコツを、人気の男性ファッション誌『MEN'S CLUB』のファッションディレクター・浅野康一氏に伺った。
シンプルだからこそ問われる"上質"
衣服の歴史をさかのぼると、シャツはもともとアンダーウエアでした。直接肌の上に着用する、"もう一枚の皮膚"と称されるようなアイテム──つまり、着る人の身体にピタリと馴染むもの。現在では、アンダーウエアという意味合いはほとんどなくなりましたが、自分の肌にしっくり馴染む、上質なものを選びたいものですね。
シャツの下のTシャツ着用は基本的にルール違反。アンダーウェアを二重に着るようなものですから。白シャツを羽織るときは肌の上に直接羽織るのが、潔く美しい着方です。
白シャツは、着こなすのが難しいという印象を持つ人が多いようです。でも、白いTシャツが誰にでも似合うように白シャツはどんな人にも似合うのです。白シャツには強い個性がない、だからこそ、着る人の色に染まり、その人の個性を素直に引き出します。
ただし、シンプルだからこそ、製品のクオリティが如実に現れるのもまた事実です。生地そのものの質、縫製の粗さ、衿に使う芯地の貧弱さ、パターン設計の微妙なミスなどが露呈しやすいのです。柄ものならばごまかしがきくかもしれませんが、白シャツはそうはいきません。「うまく着こなせない」と思う人は、シャツそのものの選び方を失敗しているのかもしれません。
私は毎シーズン、必ず2、3枚は白シャツを購入します。衿の形や角度の微妙な違い、ボディバランスの絶妙な差異というように、ブランドそれぞれが持つ微妙な持ち味がキラリと光る、その"個性"を着てみたいと思ってしまうからです。結局は着ないままシーズンが終わってしまうこともありますが、それでも白シャツの魅力にはあらがえません。そのシャツに新鮮味を感じると、つい心奪われてしまうのです。
美しい着こなしの要はサイジング
購入の際には必ず試着を。袖を通してみることで、初めてわかることが多々あるものです。シャツに限らず、洋服を美しく着る要諦はすべてサイジングにかかっているといっても過言ではありません。
シャツ選びでまず着目するべきポイントは、衿と前立てのライン。クタッと立体感が出ないものはきれいに着こなせません。とくに衿周りのVゾーンは人の視線が集中する場所なので、ここがキチッとキマるシャツは清潔感を持たせ、締まった印象になります。次に目を向けたいのは、身頃。このラインはダブつかせず、美しく見せたいですね。そして、私がもうひとつ気をつけるパーツは、袖です。アームホールは細めで、緩くフィットするものが好み。袖が太いものほど野暮ったい印象を抱かせがちですから。試着の仕上げには、正面だけでなく後ろや左右も鏡でチェックし、不自然なシワやたるみが生じていないか確認しましょう。
TPOにあわせたシャツ選び
白シャツを選ぶ際に重要なもうひとつのポイントとして、生地が挙げられます。シーンやコーディネート毎にふさわしいテイストがあるのです。
例えば、フォーマルユースとして選ぶのであれば、"シャツ地の宝石"とも言われる生地『カルロ・リーバ』のように、細番手の糸で織られたもの。これなどは、えもいわれぬ滑らかなタッチから世界の洒落者達を魅了する究極の贅沢品です。一方ビジネスシーンに合う白シャツを選ぶのならば、ネクタイをしても襟が浮かず、その収まるスペースをきちんと備えた、シャツ本来の実用的な機能要素もしっかりと押さえておきたいところです。カジュアルならば、洗い上がりで風合いの増すオックスフォードのBDシャツを一枚は持っておきたいですね。
また、テーラードジャケットに合わせるならば、シワが寄らないよう、身体によりフィットして襟が沈まないものを。ジャケット着用の場合は顔の近くに視線が集まりますから、衿を中心としたVゾーンのバランス感が重要です。
ジャケット着用時は顔の近くに視線が集中するため、Vソーンのバランス感が重要。
感性に響く一枚を選ぶ
"上質な白シャツを選ぶ"といっても、高価で著名なブランドのシャツが必ずしも自分に合うというわけではありません。もちろんブランドに頼るのは間違いではありませんし、私は否定しません。しかしファッションを愉しみたいならば、シャツとしてのクオリティを見る目を養い、自分の感性に従って選びたいものです。
ショップでシャツに向き合ったら、「このシャツをどんなシーンで、どう着るのか」をイメージしてみてください。着こなしのイメージが膨らむものが、あなたの感性に響く一枚なのです。逆に、どんなに気に入っているブランドのシャツでも着こなしのイメージが湧かないものは、その場では買わない方がいいと思います。
そうして選んだ白シャツを様々なスタイルで楽しんでみてください。ジャケット、ブルゾン、ニット、どんなトップスとも相性がいいことに驚かれるでしょう。しかも、その白シャツをインナーに合わせることでアウターの色も美しく引き立ち、清々しい大人のスマートさも演出してくれます。これが、白シャツが持つ大きな魅力なのです。
本当に自分に合った一枚を選ぶには、自分の好みとサイズを十二分に把握し、多くのシャツに触れることです。自分を知ること、価格やブランドに惑わされず、自分に合ったものを選ぶ目を養うこと──。それが、ファッションを愉しむことにも繋がるのではないでしょうか。
浅野康一 (アサノコウイチ)
フリー編集者の草分けとして、ファッションページに関わるすべての作業をひとりでこなす、通称「ファッションページ請負人」。現在、男性ファッション誌『メンズクラブ』でファッションディレクターとして活躍中。ナポリ流のタイの巻き方「ダブルノット」を日本に紹介したことでも知られる。大手外資系化粧品メーカー、所属アーティストのビジュアルコントロール、国内大手企業のファッショアドバイザー、アパレル各社のコンサルタントなども手掛ける。
掲載日:2009/4/7
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